【2017台湾旅行】1日目:台湾で台湾ラーメンを食べるという愚考(行)

台湾には前に1度行ったことがある。もう十数年前のことだ。
その時私は「旅行しやすいし、これだけ近いのだから、これからはカジュアルにちょくちょく行こう」と思ったのだった。他の海外のように大仰な荷物、長い日程で行く必要はない。国内旅行の延長のように、週末ぷらっと行ってぷらっと帰ってくることができるじゃないか、と。
…それなのに。
行きたいとは思っていたが、なかなかタイミングと欲求が重ならず、行きたい時には時間やお金がなくて行けず、行けるタイミングの時には他に行きたいことができてしまうという、間の悪さ(?)でついに十数年間一度も台湾の地を踏むことがなかった。
そして今回、干支が1周するくらいになってようやく二度目の台湾行きが叶った。

今回行こうと思ったのは、ここ最近台湾へ出かける知人やツイッターのフォロウィーが立て続けに出現し、うらやましさがキャパオーバーになったためと、LCCなら国内並みの交通費だということに今更気づいたからだ。情弱にもほどがある。
それで、念願の週末カジュアル旅を実行しようと思ったわけだが、長年溜まった台湾欲が爆発した結果7泊8日という、カジュアルにしてはそこそこ長い旅程になり果ててしまった。まあ仕方がない。

今回、LCCを使うのも初めてなら成田第3ターミナルに行くのも初めて。そして、スカイライナーに乗るのも初めてだった。
成田に行く時はこれまで京成本線を使っていたのだが、今回は朝の便だったので、できるだけ移動時間のかからない手段にしたかったのだ。
使ってみると確かに早いし、確実に座れるし、スカイライナーは良いこと尽くしだ。…が、途中なんのトラブルもなかったのに到着が3分遅れた。大丈夫?…と思ったが、本線の方でダイヤの乱れがあったのかもしれない。
3分遅れとはいえ、それまでの乗り継ぎが思いのほかスムーズにいっていたので、成田には予定よりかなり早く着いた。空港第2駅から第3ターミナルは距離があって、余裕なら歩きという手もあったが、バスを使ったのでさらに早くに到着。
第3ターミナルは飾り気がなく、驚くほど簡素でコンパクト。案外好きな雰囲気だ。

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自動チェックインをすました後は、朝飯を済ませてのんびり…と思いつつスマホをチェックしていたら、仕事でアップしたもののミスに気付く。慌ててノートPCを出して修正に取り掛かる羽目に。しかもテザリングがなぜかつながらず、空港のWi-Fiを探すなどして非常にどばたばたして手間取る。時間に余裕があって助かった…。
このトラブルですっかり脱力し、旅の始まり特有の緊張感を味わうことなく出国手続き、ボーディングをさらっと済ませて出発。
LCCって、メシがオプションなのは知ってたけど、リクライニングもできない席あるのね…。まあ台湾までくらいだったら問題はない。寝ればいいだけだから。実際即寝だった。

台北の桃園国際空港へは15分遅れで到着。このまま高雄に行くので、高鐵桃園駅まで行かなければならないが、この空港でまずやりたいことがあった。
それは、「台湾で台湾ラーメンを食べる」こと、だ。

……知らない人のために、一応説明しとかなければいけないだろう。
ここは大事なことなのだが、「台湾ラーメン」というのは、けして「台湾のラーメン」ではない。
「名古屋名物」の、辛いひき肉の入った小ぶりの丼のラーメンだ。
日本に来た台湾の人が、担仔麺をもとに作ったものだから「台湾ラーメン」と名付けられた…らしい。
東京でも愛知のラーメン店の支店があるので、食べることができるが、基本名古屋独自のものと考えていただきたい。
でも名前は「台湾ラーメン」。ようするに「ナポリタン」とか、「天津丼」とか、「トルコライス」とかと同じようなものといっていいだろう。名の由来となった国には、基本的に存在しない。

それだけに「現地で食べたら面白くね?」と思ったのだ。くだらなくも浅はかな発想である。
台湾には日本のラーメン店の支店も多い。それならどこかでうっかり出していたりしないだろうか…と調べていたら、それらしきものがあった。ただし、さすがに「台湾ラーメン」とは呼ばれていない。
その名も「名古屋ラーメン」。
名古屋名物のラーメンが名古屋で「台湾」の名を冠するなら、台湾では「名古屋」の名を冠するのは、とても自然だ。実際これが台湾ラーメンと同じという確証はないが、少なくとも見た目は台湾ラーメンそのものだ
出している店は「熱烈一番亭(ラーメン)」。その支店が奇しくも桃園国際空港のフードコートにもあるのだ!
食わない理由はない。いや、十分あるけれども。

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煽り文句が日本語だ。見切れているが、となりの「大阪炒飯」も気になる。

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そしてこれが「名古屋ラーメン」。タンタン麺にも見えるが、ちゃんと別のメニューとして存在するので大丈夫だ。
食べてるとしゃっくりが出てくるくらい辛い。うむ、日本のものもそうだった。同じだ。
…同じだからなんなのだろう。私はいったい何をしているのだろう。

そして実は…、日本の一番亭では台湾ラーメン(少なくともそういう名前のメニュー)を出していない。そもそも三重のチェーン店だ。……。
事実を整理してみよう。三重の、台湾ラーメンを出していない店の、台湾支店の「名古屋ラーメン」……。
かなりふわふわした感じが否めない。
何だろう…やりきった感じが全くしない。
はたして、私は台湾で台湾ラーメンを食べたことになるのか…?
だいたい、食べもののおいしい台湾での貴重な最初の一食を、こんなことで潰してよかったのだろうか…。

このなんだかぼんやりとした無駄な行為をするために時間を食い、しかも空港の到着ロビーと、フードコートやMRTの接続がある出発ロビーの位置関係がわからず右往左往してしまったおかげで、大幅に空港を出る時間が遅れた。
出る前に、公共交通機関で使える「悠遊カード」の購入とチャージを忘れない。これがあるとないとでは、今後の利便が天と地ほどに違う。

この3月に開通したばかりのMRT機場捷運で高鐵桃園へ行き、新幹線で南の終点左営へ。
この機場捷運のおかげで、空港-台北間の移動もずいぶん楽になった。これまでバスかタクシーしか手はなく、前回は行きも帰りも渋滞にはまりやきもきしたものだ。

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高鐵は、システムも車体も日本の新幹線なので、利用でほとんど迷うことはなかった。
遅れたために駅弁を買い損ねたのが大変無念。名物「高鐵弁当」は昼しか売ってないのだ…。
左営に着いたのは4時半。一つ分予定を明日に繰り越さなくてはならなくなった。
高雄は南にある台湾のさらに南にある街なので、暖かいと思っていたのだが、この日の気温は18度。意外と寒い。その前後の日が20度半ばぐらいだから、ついていない。Tシャツ生活になれると期待していたのに。時折雨も降ってテンションがやや下がる。
左営からMRTで高雄の中心部の美麗島近くの宿に。

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MRT美麗島駅。まさに美麗…。
荷物を置くと、すぐにまたMRTでUターンする。左営の二つ手前の巨蛋駅に。
近くの漢神百貨店に紀伊国屋があったので台湾の本を眺めてから、瑞豊夜市へ。

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ここは賑やかではあるが、観光客相手ではなくローカルな夜市なため、どこか落ち着いた感じがある。
食べ物のほか、日用品や見慣れぬ遊戯場が並んでいて、見ているだけで楽しい。

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ここで、晩飯をとることに。ローカルが主体な分、英語もあまり通じなくて、やや困った。
それでも、蚵仔煎、薄皮生煎、

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臭豆腐木瓜牛乳、

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揚げイカなどを片っ端から食べる。腹パンパン。
というわけでほとんど何もすることなく、これにて一日目が終了。

それにしても。前回の台湾旅行の時も高雄に来たはずなのだが、なぜだかまったく思い出せない。台北のほうはそこそこ覚えていたのだが…。
写真も1枚だけ三鳳宮が写っているのがあるだけ。行ったことは間違いないようだ。
現地に来てみれば何か思い出すこともあるかと思ったが、それでもまったく思い出せない。
前回私はどこに泊まり、何を見、何を食べたのか…謎。

【スペイン備忘録4】MANGAと雑コスプレの明日(後編)

ウミネコと盆踊りを挟んで、ようやく後編である。

といはいえ今さら、さらっと見てきただけの外国のマンガの状況など書いたところで何の意味があろうかとも思う。もはやMANGAは全世界に浸透しているし、同時に天下を獲るほどには席巻しないまま下り坂にあることは皆が知るところだ。
ちゃんと調べて書かれた情報ならいくらでみつけることができるし。ここにうすっぺらで無意味な雑感を書くのはノイズをを増やすだけの行為にすぎないではないか。

……しかし、そもそも全編ノイズだけのブログなので、それこそ今さらだ。さらっと見た範囲で脊髄反射的に思ったことだけを書いていこう。


前回、バルセロナの国際コミックフェアの状況を見て、日本の漫画やアニメ・ゲームの浸透ぶりに気をよくしたわけではあるが、実際にはアメコミ勢のほうが圧倒的に強い。コミックフェアの様子だけでなく、書店の棚を見るだけでも、マンガのシェアはアメコミと比べるとずっと少ないことがわかる。

それでも、前段の初音ミクではないが、確実に根付いている印象を受ける。(初音ミクはマンガではない、というのはおいておいて)

フェア会場でも、書店でも、マンガを手にとり熱心に物色する人を多く見たし、出回っているタイトルも、もはや偏りがなく、どんなジャンルもあるといって過言ではない。
もちろん強いのはアニメ化され、スペインで放映されたタイトルで、特に少年漫画が大きな割合を占めていることは間違いないが、青年系や少女系も数多くのタイトルを見かけた。

一番目につくのは、当然と言ってしまえばそれまでだが、鳥山明関連。
世界でドラゴンボールが人気を博したのは、もう20年近くも前のことだと思われるが、日本同様、今でも絶対的な人気を誇る。DB以外のタイトルの他、関連本で出てないものはないのではないか。

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完全版DB。……でもよく見るとスペイン語版とポルトガル語版が混じっているな……。同じ棚に完全版ガイドブックのフォーエバーもある。

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大全集と……超画集までも!装丁も豪華なオリジナルそのままだ。

一時期は日本で売れて海外で売れないイメージのあったワンピースも、近年では欧州で人気が上がっていると聞く。
その証拠と言っていいだろう、ファンブックが勢揃い。

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翻訳するとどうしても文字量が増えるので、中のレイアウトはガタガタになってしまっているけども。あとロゴがだいぶちがうね。


写真には撮っていないけれども、出たばかりなのか、東京グールもあちこちでよく見かけた。
そのほか面陳で目についたのは鋼錬完全版、デスノ、トリコ、暗殺教室など。
棚さしになると、書店によってラインナップがかわってくるほどバラエティに富んでいる。

以下、目についたり気になったもの。

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聖おにいさん
カトリックは鷹揚なのだろうか。

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大判サイズの鬼太郎。1巻めだけということは刊行しはじめたばかりなのだろう。とてもカッコいいデザイン。

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「百姓貴族」。鋼錬の作者だから…というのはあるしても……。これと「孤独のグルメ」は、作者のネームバリューはあるのは間違いないが、作品自体はどこまで通じているのか気になるところ。

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「NURA」……だいぶ略されたな……ぬら。

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旧版の攻殻1.5。新版出てからも相当経っている気がするけど。

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わー今敏…! こんなにたくさん! なんかすげーうれしいな。「夢見る機械」なんとかならないかなあ。

そして。
どんなタイトルを見かけてももはや驚かないつもりだったが、これには声が出た。

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毒虫小僧ー!子供時代のトラウマ本だったが、今見ると、若干絵柄がかわいらしく見える。


ちなみに、コミック類は、通常の中小書店では扱っていないことが多い。しかしコミックショップなどの専門店他に、fnacなどの新しい大型書店では扱われているので購入に困ることはない。アマゾンもあるしね。

fnacは、書籍やマンガだけでなく、ゲームやCD・DVD、電化製品まで扱う全国展開の大型メディアショップで、僕は主に各地のfnacでマンガをチェックしていた。fnacこんなん。
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そんな風にマンガを眺めていて面白いと思ったのは、独自の特典付き販売だ。

通常のコミックスのみの販売の他に、全巻、もしくは数巻収められるボックス(紙製)付きのものが売られていたりする。
これは、1巻だけについているわけではなく、いくつかの巻で、両バージョン売ってたりするので、どの巻でもボックス付きを1つ買えば、他の巻は通常版を買えばよく、とてもユーザーフレンドリー。

それほど多くはないが、複数巻のセット販売も見られた。
興味を引いたのは、『オールユーニドイズキル』のコミックス版上下巻と、小説版のセット。

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まず日本ではやるまい。判型が違うからしようがないけど、パッキングがラフだなあ。

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この暗殺教室1巻は、ピンバッヂ付き。日本にはこのピンバッヂないよね。どこで作ったのかな。

これはどれもNORMAという出版社のものなので、スペイン全体の売り方というより、この会社独自の販売戦略なのだろうか。
公式サイト↓
NARMA COMICS

NORMAは独自にショップもある。時間が合わなくて閉まっていたけど。

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ブラックサッドかっこいい…。マンガじゃなくてBDだけど。


マンガ関連の商品はコミックだけでなく、グッズも多く見かける。

フィギュアなどの日本からの輸入品も多く見るけど、日本では見かけないものもいくつかあった。(いや、僕が知らないだけの可能性は充分にあるけれど。)

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日本で見ないものは公式なのか?…と疑いがちだが、意外とオフィシャルなのが多い。まあ、前回のイベントでのTシャツのように、明らかにアンオフィシャルなものも多々見かけるのだけど。ここにマーケットの伸びシロがあるといえるし、この鷹揚さは、マンガ浸透のためにまだ必要な気もする。

グッズを眺めて一目で気づくのは、マジンガーグッズの多さだ。

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フランスでのグレンダイザーとか、フィリピンでのボルテスVみたいに、海外で古いロボットものがピンポイントで人気だったりするが、スペインではマジンガー(特にZ)が本当に根強いのだ。

でも、マジンガーシリーズのリメイク作品はいくつかあるはずだけど、スペインでは全然見なかったなあ。

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このTシャツすごく欲しかったけど、缶入りでかなりかさばるから無理だった。
マジンガーグッズを中心に日本では見かけないものの多くは、「SDトイズ」というところが作っているようだ。
スペインの版権グッズメーカーなのかな。
SDトイズ公式サイト↓
SD TOYS

サイトを見ると
スターウォーズ、ロードオブザリングス、DCコミックスもの、ドラマ系など
日本のは、マジンガーの他にはアラレちゃん。
扱っているジャンルがバラバラだな……。


マンガ関連で他に目についたのは、研究本・解説本の類だ。

自分でも目を疑うほどブレブレだが、某所FNACの棚。

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FF、宮崎駿浦沢直樹などの名前が並ぶ。

これは国際コミックフェアのショップブースでの写真。

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ずらっと日本作品を扱った本が。
海賊本のようにも見えるが、中身は文字モノ。
図版は無許可だろうけど。(中身は引用レベルだけど、表紙は……)

著者を見る限り、スペインのものだと思われる。
ここでもやはり目につくのはマジンガーZ

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全話解説、設定画、社会現象(主にスペイン国内)などについて書かれている。
ちょっと欲しかったが、これもでかくて重くて涙をのんだ。

そして番外として、なぞのパロディ本。「ドラゴンフォール」。

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完全版に装丁をそろえているよ……。
実は頭のDB完全版の画像にもしれっと紛れている。
ウィキペディアにもある。スペイン語版だけど。
Dragon Fall-Wikipedia

93年からとあるから、元ネタ同様相当に息の長いタイトルだ。

中身は他作品も取り込んだ徹底したパロディ。クオリティは……よくわからない。


最後に。現地の書店のマンガ棚を何度か眺めていると、マンガを物色する女子率の高さに気づく。

彼女たちは、少年もの、少女もの、ジャンルに関係なく熱心にマンガを見ている。
そのへんは日本と変わりないとも思えるが、他のコミックに比べ本当に女の子が目につく。

これは単純に、男の子向けコミックは、マンガ以外にもアメコミその他があるので分散される一方で、他国のコミックで女の子に向けているものが少ないためだろう。自然と少女ものでなくても女の子のとっつきやすい絵柄の多いマンガには、女の子が多く集まることになるということか。

スペインのマンガマーケットは(もしかしたら他国も?)女性が支えているのかもしれない。
そうでなくてもいい光景だよ、棚の前で外国の女の子が夢中でマンガを見ている姿は……。

そういう普通のコたちがいる一方で、「あ、ナカーマ」と言いたくなるような、高い声で早口でしゃべるTHEオタクみたいな子らもいて、世界は広いのか狭いのかよくわからんな、と思うのだった。

何やらキリストどうやら盆踊り

なんと、スペインの話ではない。

前後編に分けたネタを前編だけ上げて放置した挙句、別の記事書くとかどうなのよ……とは本人が一番思っている。(というか本人以外はどうでもいいと思っているに違いない)

しかしながら、記憶の新しいうちに書いておかないといけないこともあるのである。やる気のある内に書いておかないと書く機会が永遠に失われることもあるのである。そのぶん、スペイン関連の記憶もやる気もどんどん霞んでいくわけだが……。


ということで、もう一月以上前の外国の旅行のことはおいといて、つい先日のお出かけのことである。

木曜の夜になって、急に土日が空くことになった僕は、ちょうどこの時に行われる「祭」に行くことにした。当然準備も下調べもしていなかったので、ずいんぶんあわただしい、行き当たりばったりの出発となった。

ソコにそうまでして行きたいかというと、実はそこまででもなかった。だいいち現時点で出かけたいところは他にたくさんあったのだ。特に島に行きたかった。島、いいよねえ……。
しかしながら、ソコにはどうしても行きたいという欲求はなくとも、ずっと以前からいつかは行っておきたいと毎年思い続け、のどに刺さった小骨のように気がかりになったままだった。そして、その日に行かないといけない理由は、他の行きたい場所にはなく、ソコにしかなかった。

そんなわけで、どこか昔の自分への義務感のように向かった行先は、ラテンとは対極にあるようなイメージの、青森。東京駅からはやぶさに乗って数時間、いちご煮せんべい汁の八戸に降り立った。

そしてすぐに八戸線に乗り換え、着いたところは「鮫駅」。

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「鮫」。いい地名だ。外国の人はつい「セイム」と読んでしまう……かはわからない。

ウミネコの街 鮫
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どっちだ。
ウミネコ推しということは、魚の鮫は関係ないとこなのか?

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と思えば、まんまサメのオブジェもあるし。よくわからない。

だがここがウミネコの街であることは間違いなかった。

駅から歩いて10分ほどでの距離に、最初の目的地・蕪島はある。島とあるがおもいきり陸続きである。こんなことでは島欲求は満たせない。満たすために来たわけではないが。

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すでに遠目からも隠しようもないほどいっぱいいる。

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それもそのはず、この神社をいただく高台から奥の一帯は、ウミネコの一大繁殖地なのだった。

ウミネコ

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ウミネコ

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ウミネコ

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階段から鳥居から何から何まで神社の敷地そこらじゅう、足の踏み場もないほどにウミネコが転がっている。落ちていると言ってもいい。人が行き来する道にも、逃げる気皆無で野放図にいる。

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雛さえもだ。
この時期はちょうど繁殖シーズンなのであった。

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こちらが気をつけないと、踏みかねないほどの繁殖ぶりである。ちょっと自由すぎやしないだろうか。

しかも向こうは子育てということもあってちょい強気だ。ちょいちょい威嚇される。だいたいウミネコの顔が、怖い。

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怖い。

雛も雛なのにあんまりかわいくない。

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このくらいだとややかわいい。

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卵も手の届く場所に転がっている。もうちょっと人間を警戒してもいいのではないか。
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神社の奥は広大な立ち入り禁止エリアになっているのだから、みんなそっちで繁殖すればいいと思うのに、ウミネコはほうはおかまいなしである。

もちろんその広い無人のエリアもウミネコだらけである。

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ウミネコ地獄である。
岩や地面が白いのはフンのためである。フン地獄でもあるのだ。W地獄の贅沢な光景がここにある。動物の子供にまみれながら、イマイチほんわかできないという貴重な体験もできるステキな場所だ。

しかし私は大量のかわいくないウミネコ見るため来たわけではなかった。

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八戸市水産科学館で妙なポーズのフサギンポを見たり、

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チンアナゴらしきものを食っているモズクショイを見たりもしたが、もちろんそのために来たわけでもない。

イワシの群れを漁師に教え、八戸太郎と親しまれたクジラが石になったという伝承のある、西宮神社の鯨石を見たり、
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天然芝の海岸、種差海岸を見たり……

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したが、そのために来たわけではないのだ。これらは全て余禄である。

八戸は宿泊のために寄ったにすぎない。翌日こそが本チャンなのであった。この日の全ては前座なのである。

この記事もまだ前振りなのである。割り込んで書いている記事だからなんとか一本に収めたいのに、また前振りが長くなってしまった。画像もこの時点で20枚を超えてしまった。…と、書いているのも記事を長くする要因なので、とっとと続けよう。

――そして迎えた翌朝。

陸奥湊にある、館鼻岸壁の日曜朝市を訪れた。まだ八戸かっ、とは言わないでほしい。市場があるなら訪れたいのが人情である。

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せんべい汁を食べ、

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馬肉鍋を食べ、

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虫の形をしたグミを食べ、

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カレーパンを食べて腹いっぱい僕は、ようやく本来の目的地へ行くためレンタカーに乗った。しかし、なんだこの節操のない朝食は。


八戸から車で約1時間、たどりついたのは新郷村

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この村名を聞いてもうピンときた方もいるかもしれない。

2015年6月7日、この日はここである祭りが行われたのである。それこそが、今回のお出かけの目的だった。

その名も「キリスト祭」。知る人ぞ知る、だがわりと知られている祭りである。

知っている人には今更なのだが、ここである「伝説」について説明しなくてならない。

かのイエス・キリストは生涯は、信心に関係なく多くの人の知るところだ。ローマ政府に売られた彼は、ゴルゴダの丘に磔にされて刑死した、と。

……しかし、実は磔にされたのは身代わりとなった弟・イスキリであり、イエス本人は密かに生き延び、長い旅の末に日本に行きついてそこで終焉を迎えた――という異(珍)説があるのだ。

そしてその終焉の地こそ、かつては戸来(へらい)村と呼ばれた現新郷村であり、その墓もここに現存するのであるッ!!

オカルト界隈ではまあわりと有名な話ではある。

与太話と言うなかれ。
「戸来」とは「ヘブライ」を連想しないだろうか。
この地の古い風習の、赤ん坊の額につける魔よけの印が十字であることは偶然だろうか。
さらにこの地に伝わる盆踊りの歌「ナニャドヤラ」の不可解な歌詞がヘブライ語で解読できるという説もある……。

歴史の真実がこの地に眠っているのである…ッ!!
……というのは言い過ぎだ。かなり。

実際のとこ、事実として明確なのは、風習と歌の存在だけである。由来不明の塚もあることも確かだ。
しかし、この地にそんな伝承が残っていたわけではない。

この「伝説」は、ある人物とある文献によるものである。それがどんな人物であり、どんな「文献」であるかはググればすぐにわかるし、面倒くさいので割愛する。眉に唾つけてから検索してほしい。

ともかく、この土地にとっては昭和十年にその「文献」がらみの人間が訪れてもたらした、いきなり降ってわいた話なのである。「墓」もその時「古代史研究家」によって「発見」されたのもだ。

歌の歌詞がヘブライ語であるというのも、大正時代の1人の神学博士が唱えた説だが、言語学者やヘブライ語に精通した人がそれを保証したことはない。ちなみに、かの民俗学者柳田國男は、「何なりともせよかし、どうなりとなさるがよい」 とし、祭の日に、女性が男に向かって呼びかけた恋の歌としているし、他説もいくつかある。僕には「何やらどうやら」が訛っただけにも思える。

そもそもこの歌は、新郷村だけに残されているわけではなく、岩手や秋田のほうにまで広く伝わっているものだ。

だから、この話を丸呑みするのはだいぶ軽率だし、のん気にロマンと言ってしまうのもどうかという気もする。話の大元である「竹内文献」は、まあようするにでっち上げなわけで、その根底にある思想も考えると、無防備に持ち上げるのは危うい。
とはいえ、デタラメだとして頭ごなしに一蹴するのももったないネタ…もとい話だとも思う。

ではそれじゃあ、そんな降ってわいた「伝説」に対して、土地の人はどう判断したのか。

「キリストの墓」と隣接する「キリストの里伝承館」のチラシや、村のサイトを見ると「湧説」「突拍子もない仮説」などの言葉が散見される。その一方で、トンデモ扱いしてちゃかす雰囲気もない。
冷静に距離を置いて信じこそしないが、はっきりと否定もせずに受け入れている様子が見られる。

その一つの表れが、この「キリスト祭」だ。
この祭は、キリスト教の祭事などではなく、なんと墓のキリストを「慰霊する」祭なのだ。

うそかほんとかはおいておいて墓があるなら慰霊する――シャレと優しさとしたたかさの入り混じる、なんともゆるくておおらかな受け入れ方だ。

それとも「そんなおいしいネタ、利用しなくてどうするよ?」と僕みたいな脳の人がいたのかもしれないが、それはばかりはおしはかりようもない。

そんなわけで、この村では毎年一度、「キリスト祭」として慰霊祭が行われているのである。
神秘というには不思議度の足りない、カオスというには優しい、ネタというにはマジメな、このゆるグレーなこの祭に魅力を感じる人は少なくなく、僕もいつか見てみたいと思って、今回ようやく叶ったのである。

キリストの墓は普段も観光スポットとして訪れられ、駐車場もあるが、十数台しか停められないので、、祭の日は関係者の車で埋まってしまう。そのため、この日は近くに臨時駐車場ができていた。また、村の中心部からもシャトルバスが出ているらしい。

車で来た僕は、警備の人に誘導されるまま、臨時駐車場と言う名の空き地に停めて、墓のある会場に向かった。

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え…52回もやってるの!?

半世紀以上も続けているのならば、昨今の状況を鑑みれば「伝統行事」と言ってもいいくらいの年期だ。

祭開始の1時間前に着いたので、まだ人はまばらだった。

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祭壇を見てわかる通り、慰霊祭なので、神式で行われる。キリストに神式、というのはいささかシュールな気もしなくないが、キリスト教にはキリストを慰霊するなどという概念はないだろうし、神の子に仏式というわけにもいくまい。ベストなチョイスなのではないか。……いやどうだろう。

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さあこれが「キリストの墓」だ。戸来塚とも呼ばれる。十字架は「発見」後つけられたものなのだろう。土まんじゅうに十字架…ビジュアル的は最高にそそる。

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墓は二つ並んでいて、もう一つは弟イスキリのものとされている。弟はこっちで死んでないけども。

二つの墓の間には石碑が埋められている。

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なんとイスラエル大使も訪れているようだ。まあユダヤ教じゃねえしとか思ったのだろうか。真ん中の白い石は、エルサレム市から友好の印に贈られた「エルサレムストーン」という大理石だそうだ。

時間があるので、先にキリストの里伝承館を見学。

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昭和初期の村の民家の居間を復元してあるが、人形のチョイスのせいで、だいぶシュールな感じに。

民具の展示も興味深い。

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だから人形がね。わざと濃い顔選んでるよね。

世界の不思議が記された不思議儀。

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日本は地元の二つがエントリー。

奥は、キリスト・ユダヤと土地の風習を結び付けた展示と、この「伝説」の「主犯」である、竹内文献コーナーになっている。

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生来のツッコミ魂をむずむずさせながら見学を終えた後、この村の産品である飲むヨーグルトでのどを潤した。

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そしてついに慰霊祭が開始。
これが式次第。

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なんか、普通の行事っぽい。

関係者の挨拶から始まり、地元の神主による祝詞に続く。

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参列者は地元の関係者の他、議員など。ますます行事っぽい。神秘やロマンとは程遠いが、この世俗っぽさとキリストの慰霊というトンデモの組み合わせが、実にいい。ちなみにこの日は青森知事選挙が行われていたので、知事は代理が出席。でも誰の代理ということになるのだろう?
なんとかすぎるなんとかの人も来ていて、あれ?この人は別の市の人じゃない?と思っていたら、肩書は「飲むヨーグルトファン代表大使」となっていた。いろいろやっているんだね。

かしこみしたあと、奉納神楽へ。

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戸来獅子舞というものらしい。

神事が終わり「キリストの里公園短歌入選歌発表会」へ。獅子舞の写真の手前にも写っている、ここに設置されたポストに投かんされた短歌のコンテストの入賞者を発表し、選評を行うのだ。

そしてようやく祭のクライマックス、もう一つの奉納舞「ナニャドヤラ」が行われた。

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キリストの墓の周りを囲んで踊る、ソレは完全に盆踊りだった。いやもちろん初めから盆踊りなのだけど、想像してたのよりはるかに盆踊りだった。

神秘のカケラもないが、慰霊だから盆踊りでいいのである。十字架の刺さった墓の周囲を回るビジュアル、というのがかなり独特ではあるが。

そんなわけで、木漏れ日の下で行われる盆踊り「ナニャドヤラ」は、少なからず期待していたカオスな雰囲気などなく、どこか爽やかで、ゆったりとした気分にさせてくれる。

こうして、祭は終始のんびりとした空気の中つつがなく行われ、リンゴジュースでの乾杯で締められ、1時間半ほどで終わった。

祭のあとは、伝承館前の広場で一般の人も交えての「ナニャドヤラ」がアンコール的に舞われていたが、僕にそれを眺めている暇はない。
すみやかに土産物をチェックしなければならない。
イベント以外で、こうしたスポットで期待されるのは、グッズであるからだ。

伝承館のお土産コーナーには、オリジナル木製ロザリオや、絵はがき、「ナニャドヤラ」のCD、手ぬぐいのほか、村の名産品など。

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CDは通販で購入済みだったので、手ぬぐいを買う。どうしても手ぐいは買ってしまうのである。買わずにはいられないのである。

さらに墓のふもとの向かいにも、その名も「キリストっぷ」という名のショップがある。

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Tシャツがわりといい値段である。

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ここにもオリジナルタオルや手ぬぐいががが。買ってしまう……。

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東北ずん子バージョンの「ナニャドヤラ」って……。ボーカロイドて……。これが一番攻めてるグッズな気がする。

こうして、祭のゆったりとした空気に満たされたせいか、なぜかとても穏やかな気持ちで、「ナニャドヤラ」の歌がエンドレスで聞こえてくる会場を後にしたのであった。


その後、この地のもう1つのオカルト物件「大石神ピラミッド」(山の中の岩場だが…)や、ちょっと足を延ばして十和田湖まで行ったのだが、それはともかく道中見つけた虫の写真の方が大事だと思うで、それで締めたいと思う。

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ブドウスカシクロバ?
瑠璃色の触角がキレイ。

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ヒョタンゴミムシ?
死んでいるのか死んだふりなのかわからなかった…。

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ハマベオオハネカクシ

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毛虫s
画像で見るとかわいいんだけどなあ。生で見るとまだちょっとぎょっとする。

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ムモンベニカミキリ?
触角ギザギザ。

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ヒゲブトハナムグリ
触角モコモコ。

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カミキリ2
飛んできたのでつい捕まえてしまった。

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シラヒゲハエトリ
お腹パンパン。

【スペイン備忘録3】MANGAと雑コスプレの明日(前編)

初音ミクだった。

2015年の4月18日、だいたい午後2時、バルセロナ・プラット空港に到着した僕は、初めてスペインの地を踏んだ。
ドバイ経由でおよそ21時間。30分の猶予しかなくなったトランジットでターミナル1→3間をダッシュしたり、サイクルの短い機内食に腹パンパンになったりしてだいぶ消耗していたが、まったく知らないところへ来たことへの不安と興奮で、テンションは高かった。
空港から、アエロブスというシャトルバスに乗って1時間弱、バルセロナの中心部・カタルーニャ広場に降りた。
土曜の真昼間、街は人でごったがえしていた。治安の問題はまずなさそうだが、勝手のわからない場所で大きな荷物を抱えている状態はなんとも心もとない。早いとこひとここちつきたいし、何より身軽になってこの街を歩き回りたい気持ちで焦りながら、宿へと歩き出した。宿はカタルーニャ広場から10分弱のとこにあるはずである。

その道中まもなくこと。
前を行く親子連れに妙なひっかかりを覚えた。

両親と、小学生低学年くらいの女の子の3人連れだった。親はどちらも品のいい中流家庭の典型のような風体。変わったところはなにもない。子供も赤毛(金髪だったかもしれない)のかわいらしい少女だった。
だが、子供の着ているものが少し妙な気がする。
派手なところはない。露出も多いわけではない。
グレーの袖なしのシャツから出る腕に、なんといえばいいのだろうか、黒い、腕抜きというか、ソデだけのパーツをはめている。そのソデは、先の方でラッパのように広がっている。下は黒いスカートと黒いニーソックス。服のところどころにミントグリーンの布が使われているのが印象的だ。

とても既視感があった。

そう、とても……初音ミクである。

そう見える……というか、そうにしか見えない。

最初は、疲れているから脳が錯誤しているのかとも思った。
だけれども、何度見直しても、初音ミクにしか見えない。

いや、まちがいなく初音ミクだ。
細部まで徹底して作りこんでいるわけではなく、おおざっぱな作りで、「だいたい初音ミク」といったところだが、偶然そこらの子供の服装が似るというデザインではない。これは明らかに初音ミクたらんとして、作られた衣装だ。
髪型はもちろん二本にしばっている、いわゆるツインテールである。

だが、なぜ……?
この格好は、親がさせたものだろうか。子供がお願いしたものだろうか。
親の方にはまったくコスプレめいた要素は見られない。オタク感も微塵も感じられない。だが、子供主導で選ばれるキャラクターとも思えない。
仮装の一種として、どこかで見かけたかわいらしい格好を選んだだけなのだろうか。

少なくともわかるのは、この格好をしたい(させたい)と思わせる程度には、初音ミクのビジュアルがスペインにも浸透しているということだけだった。
そしておそらく、この国は、コスプレをすることのハードルが日本よりも低いということも間違いなかった。仮装パーティやハロウィンなどの影響かもしれない。

しかしながら、それらの憶測を確認するために声を掛けるという勇気も気力も語学力もなく、僕はただ首をひねりながら宿へ急いだ――。

気がかりだけが残った。
しかし、なぜ今日か、ということに関しては、心当たりがあった。

ちょうどこの日の数日前から、バルセロナの見本市会場である「フィラバルセロナ」で、国際コミックフェア「SALO INTERNACIONAL DEL COMIC DE BARCELONA」が行われていたのだ。

たまたま行き会ったネット上の情報で、あらかじめそのことを知っていったのだが、それがどの程度の規模で、どんなことをやり、どんな人々が訪れているのかは、検討もついていなかった。

ちょうどいい。この国で、コミックやアニメカルチャーはどのように受け入れられているのか、その実際を見るために、翌日、最終日となるこのイベントに行ってみることにした。まあ、もとから予定に組み込んでいたのだけど。

翌日は、数ある観光地を放置して(ピカソ美術館には行ったけれども)動物園や水族館を巡ったのちに、フィラバルセロナへと向かった。
会場は、バルセロナの中心部の南西部、モンジュイックにある。最寄り駅のエスパーニャ駅はカタルーニャから地下鉄で4駅。20分もかからない。

駅を降りてカタルーニャ国立美術館へ向かう途中にフィラバルセロナはある。

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奥の大きな建物がカタルーニャ美術館。その手前に、夜にはライトアップされ噴水ショーが行われるマジカ噴水が。右手前にあるのがフィラバルセロナで、チケット売り場のテントが確認できる。

イベントのポスター

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ポスターのビジュアルはもう一つあって、入場口のゲートにも描かれている。

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このデザインは、バルセロナの目抜き通りランブラス大通りの海側の端に建てられた、この塔のパロディだ。

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像の人物はコロンブスである。

入場料は当日8ユーロだった。
入場前からコスプレの人をちらほら見かける。コスプレ姿でここまで来ているようだ。
ほとんどは車で来ていると思われるが、ここへ来る途中地下鉄でコスプレ姿を数人見かけた。

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そんなコスプレの子らの間に挟まって入場。
こんなとこに来ておいてなんだが、ほとんどの元ネタがわからない…。

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会場内へはまずエスカレーターで2階へ上がる。混雑時の出入りをスムーズにさせるためだろう。

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2階には入るとすぐ目の前にイベントステージがあった。この時はコスプレ紹介みたいなことが行われていた。
絶好のタイミングでちょうど人が立ち上がって、せっかくの2体のアイアンマンが同時に隠れた……が、気合いのほどはわかる。
でも司会らしき者が一番気合入っている気が……。元ネタわからないけど。

そして2階の大半のスペースを使ってコミックの原画展示が行われていた。
この辺は不案内なのでほとんどの原画の作品がわからないのだが、マイク・ミニョーラだけはさすがにわかった。画像は念のため割愛。

そのエリアの中央には……パンズ・ラビリンス、ヘル・ボーイの撮影アイテムが展示!
デ・ル・ト・ロ!!
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腕&腕。本物?本物なのか!?……あ、ピカチュウパーカーの人が写りこんでいる。

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設定画も!(一応キャラっぽいのは避けておく)

これは期せずしてアガる!

ステージを挟んで原画展示と反対のスペースには、ゲーム関係企業ブース。といっても任天堂とプレステ4の2つしかないけど。

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ゼルダの歴史っぽい展示

モンハンの記念撮影コーナー。

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「G」印は「ULTIMATE」になるのね。

プレステ4は「ゼノバース」メイン。
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悟空&ベジータと写真が撮れるよ!

残りのスペースはコスプレグッズ販売や、特殊メイク体験ブースなど、コスプレ関連のブースが固まっていた。また、業者によるコスプレ本格撮影コーナーとともに、空きスペースを使って、個人もコスプレ撮影をしていた。自分や仲間内での撮影がほとんどで、日本のカメコのような人が囲む、というような状況は見られなかった。


1階へ降りると、2階と同程度のスペースで、小規模コミックショップ、DVD・ゲームショップなどが集まるエリアがまずあり、隣接するこれまた同じくらいのホールで、出版社や関連企業、大手ショップのブースが展開していた。ここが一番賑やかなエリアになっているようで、人の密度も高く、作家のサイン会もところどころで行われていた。片隅には、まだ小規模だが同人誌も売られていた。

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フィギュアやTシャツなども売っている。
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フィギュアはともかくこれらのTシャツはまちがいなくアンオフィシャルであろう……。

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手張りなのか。

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こんなのも…。パーカーのほうが高い。

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サクラクレパス
国内ではコミックやイラストの印象は薄いが。

とあるショップの店員さんの後姿。
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復活のFのスペイン語チラシをTシャツ化……。ちなみに、この時日本で公開が始まって2日後。

このように、どうしても日本の漫画に目が行ってしまうが、実際はコミック全般のイベントなので、大半はアメコミ関連が占めている。BDや地元のコミックも目につく。これはスペインのコミック市場がそうであるということを示しているだろう。見た目の印象では「マンガ」は全体の4~5分の1といったところか。バルセロナでの書店のコミック棚もそのくらいの割合だ。地方へ行くと、マンガの棚の占有率はさらにがくんと下がる。

しかしながら、10月には同じ場所でマンガ中心のイベントが行われる。
SALO DEL MANGA DE BARCELONA

それを考えるとマンガも頑張っているのだな。

具体的なマンガの状況は後に置くとして、スペインのマンガ熱は会場内外のコスプレを見てもわかる。まあ、僕には大半がアメコミ由来だかマンガ由来だか元ネタ自体がわからないのが多いのだけど…。

僕が特に印象深かったのは、コスプレすることのハードルの低さだ。
それは先にも書いたように、ベースとして仮装することの抵抗感の少ないことに関係しているのかもしれない。

だから、作りこんだものよりカジュアルなコスプレが多い。悪くいえば雑だが、とても気軽にコスプレを楽しんでいる気がする。(もちろん細部まで作りこんだコスプレもある)
そのため、高クオリティとネタの2ベクトルしかないように見える日本にくらべ、とても敷居が低く、すそ野が広く見える。

ある女の子は、つば広の透けた黄色い帽子、赤いタンクトップ、青いボトム姿…でルフィとなっていた。一つ一つは色味しか合っていない乖離ぶりなのに、全体の印象として「ああ、ルフィね!」とひと目でわかる姿に目からうろこが落ちた。たぶん日本では、こんな思い切った格好できないだろうなあ。
そのぐらいの雑コスプレが受け入れられるならば、コスプレ行為に対する敷居はぐっと下がるに違いない。

ということはさて置いておいて、僕が会場で一番ぐっときたコスプレがこれ。

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おお花道と流川……背が高いから余計はまってる。若干盗撮くさい感じになったが……まあ実際こっそり撮っているので言い訳のしようもない。
スタイルいい子がコスプレすると決まるね……あ、いや、着る方はそんなこと気にしないで楽しめばいいんだよ!

そういえば、わりとスカート姿のコスプレ(元ネタ不明)をする男子も見かけたな。なぜかみんな小太りだった……いや、いいんだよそれで!うん!楽しんでいれば何よりだよ!

ともかく、雑コスプレも雑でないコスプレも各々が好きなスタンスで楽しんでるのは何だかいいなあ…と思う、国際コミックフェア見物であった。


……続いて漫画のことも書くつもりだったけれど、なんだか長くなったし、力つきたので、いったんここで区切ろうかと思う。

もしやる気が残っていたら後編へ続きます。