【スペイン備忘録2】バルとは何だったのか

なんとちゃんと書きましたよ。旅行記に代えてスペインでの何やらを書き放る2回目。はい、ハトは1回目に数えます。
そう続くわけもないので、書けるうちに工夫のないスペインらしいネタをやっておこうかと思います。



スペインで飯を食うに当たて、避けては通れない場所がある。
いや積極的にぶち当たっていきたい場所と言うべきか。


それは、「バル」。
バルバルバル。バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノン!
ではなく。

BAR書いてバル。とはいえこちらで言うバーとは少し違う。カウンター主体で、たしかに酒も出されるが、昼間はカフェともなり、軽食処でもあり、昼飯晩飯どきには食事を給す。夜には飲み屋ともなる、小皿料理タパスでおなじみの、紳士淑女の社交場…と今更にわかが書くまでもない。御存じバルである。
申し訳ないほどベタなことこのうえないが、せっかくスペインに来てバルに行かないわけにはいかない。タパスを食べないわけにはいかない。セルベッサポルファボール(ビールちょうだい)と言わないわけにはいかない。バーガーキングとかラーメンとかも食ったりもしたけれど。

このバル、江戸でいえば「伊勢屋稲荷に馬の糞…」ばりに、スペインの街のいたるところにある。

……だけれども、僕は滞在中しばらくしてバルとはなんなのかよくわからなくなってしまい、いまだなんなのかよくわからないでいる。
バルのゲシュタルト崩壊である。

そのワケは、その数ゆえか、あまりにもバルがバラエティに富み過ぎているからだ。

もちろんオーソドックスな、素人目にもこれはもう間違いなくバルである、というものはわかる。カウンターで、タパスやピンチョスをつまみつつ酒を飲む店……。しかしこれをピンだとするならば、そこからキリの方向には、茫洋とした、めまいのするほどの多様性と曖昧な境界が広がっているのだった。

店ごとに、庶民的~高級、オシャレ~カジュアル、値段もターゲットもさまざまなのは、まあ旅行前から想像に難くはなかった。しかし、実際のバルはそんなバリエーションではすまなかったのだった。
先に書いたように、バルは時間帯によってカフェやレストランの役割も果たすので、実際のカフェやレストランとの境界線上は非常にぼやけたものだ。ある程度の大きさのバルはカウンターの他にテーブル席や外のテラス席も充実している。むしろカウンターは添え物みたいになっているところも少なくない。逆に「レストラン」とあっても、大きなカウンターを備えて、目の前にタパスがずらっと並んでいたりすることもあるから混乱は増す。

このように「バル」とあっても一様でない形態なのに、「カフェバル」(カフェバーではない)とあったり「レストランバル」とあったりする店も多い。そもそも重なっている領分なのにわざわざそう書くのは何か意味があるのか?いったい何が違うのか?どっちかが主なのか?ただノリで言っているだけなのか?店の前であふれる疑問をとどめることができない。

さらに、「セルベセリア」や「メゾン」などという飲み屋もあるのだけど、これとバルの区別はほぼないように見える。バルの下位分類がセルベセリアやメゾンなのか、まったく別角度の種別なのか。それとも雰囲気でつけているだけなのか。

おまけに、ひとつの店でバルエリア、レストランエリア、カフェエリアに分かれているところもあったりするのだから、「バル」の意味とはいったいなんなのか……途方に暮れるほかない。

出す料理だって一筋縄ではいかない。
昔からのタパスを出すところだけでなく、見たところ、本来レストランで出すような料理をタパス形式にしたり、もしくはまったく普通に皿でも出してたりする店もある。
高級料理やパティスリー、完全な創作料理を出す店もある。

……ここまでフリーダムだと、まったくもって「バルの要件」というのはなんなのか、さっぱり見えない。そもそもあるのかどうかすらあやしくなってくるではないか。

だから僕は、旅行のある時点から、目の前の店がバルなのかレストランなのかなどと考えるのをやめた。店先のボードを見て、メニューを見て、食いたいものがあるかどうかしか見なくなった。それでわからなければ聞いてしまう。
だいたい、メシ屋が集中する一画で、テラス席がずらっと並んでいるだけだと、レストランもバルもピザ屋もカフェも見かけはまったく区別がつかないのだから、考えるだけ無駄だ。

こうして、僕はバルのゲシュタルト崩壊を起こしたまま、ついに回復することかなわずに帰国し、現在に至るのだった。バルって何よ?

滞在中から、これはかなり強く疑っているのだが、実はもはや「バル」という言葉に意味などないんじゃないだろうか。そして実際のところスペインの人もよくわからなくなっているんじゃなかろうか。
そのへんのところを言葉の都合や心の開き具合の都合で聞けなかったことが、やや心残りである。


最後に、バル(?)での写真を。

 

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バルセロナのバル。店名に「セルベセリア」とついている。きれいで入りやすいし、目の前にあるのでタパスも指さしで頼める。難は、地元にも観光客にも人気なので、飯時あっという間に混むこと。この時は早めの昼飯で空いていた。でも早すぎると、まだタパスの準備ができていなかったり。となりに座ったスーツのお姉さんが、仕事の合間なのかコーヒーを一杯一気飲みしてあっという間に出て行ったのが、とても格好良かった。メニューは、トルティーヤとプルポ・カリェガ。

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セビージャのバル。タパスのパエージャとガスパチョ、そしてサングレア。
はい、夜はもちろん、昼も毎回飲んでました。だってみんな飲んでるし、暑いし、安いんだもの。

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上の店のある通り。テラス席が並ぶ。バルを名乗る店もあれば、レストランを名乗る店もある。

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フエンヒローラのレストランのバルエリアで。ハモンイベリコとだいぶ食い進んでしまった酢漬けアンチョビとアルボンデガス。フエンヒローラのレストラン通りの店は僕に少々お高く、店員もどこかガツガツしていたので、外れたところにあったこの店を見つけて安心した。

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ロンダでのミックスタパス。バルというよりレストランと思われる。あまりぱっとしないラインナップ。タパスはすぐ出せる冷たいものと、注文してから調理する温かいものに分かれ、先に冷たいのをつまみながら、温かいタパスを待つもの……と勝手に解釈した。

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ネルハのタパスレストラン。オレンジが入っているけどうまいマラガ風サラダ、ガンバス・アル・ピルピル、タラのトマトソースがけ。茹でエビ(ガンバス)も頼んだけど、うますぎて写真に撮る前に食べてしまった。スペインの茹でエビはどこでもたいがいうまい。

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グラナダのバルはカーニャ(コップ)のビールを頼むとタパスが一品つくお得なシステムがある。頼むたびに違うタパスが出てくるのが気が利いている。これはそれぞれ違う店のものだけど。

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タパスだけでなく、しっかりした食事を出すバルもある。マドリッド

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バルセロナのサンジュセップ市場内の海鮮バル。観光客向けで、高めのものを推してくる。味は普通。

それにしてもこのバルなどで出されるタパスという形式、お一人様には本当に助かる。他の国だと、一品頼んだら大皿でどーんと出てきて、それでお腹いっぱい、ということも少なくない。複数人ならばいくつか頼んでシェアできるし、西洋人はそれを1人で何皿も食べられたりするが、一人旅の胃の小さい東洋人にはそうはいかない。その点タパスなら、いろんな料理をちょっとずつ食べられる!もっと広まればいいのに、タパス!
そうはいっても、旅先の一人飯(特に晩飯)は、どこであってもなんだか心もとなく、肩身が狭く、さびしいものよね……。まあうまい飯とビール入れば関係なくなるんだけど。