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【スペイン備忘録3】MANGAと雑コスプレの明日(前編)

初音ミクだった。

2015年の4月18日、だいたい午後2時、バルセロナ・プラット空港に到着した僕は、初めてスペインの地を踏んだ。
ドバイ経由でおよそ21時間。30分の猶予しかなくなったトランジットでターミナル1→3間をダッシュしたり、サイクルの短い機内食に腹パンパンになったりしてだいぶ消耗していたが、まったく知らないところへ来たことへの不安と興奮で、テンションは高かった。
空港から、アエロブスというシャトルバスに乗って1時間弱、バルセロナの中心部・カタルーニャ広場に降りた。
土曜の真昼間、街は人でごったがえしていた。治安の問題はまずなさそうだが、勝手のわからない場所で大きな荷物を抱えている状態はなんとも心もとない。早いとこひとここちつきたいし、何より身軽になってこの街を歩き回りたい気持ちで焦りながら、宿へと歩き出した。宿はカタルーニャ広場から10分弱のとこにあるはずである。

その道中まもなくこと。
前を行く親子連れに妙なひっかかりを覚えた。

両親と、小学生低学年くらいの女の子の3人連れだった。親はどちらも品のいい中流家庭の典型のような風体。変わったところはなにもない。子供も赤毛(金髪だったかもしれない)のかわいらしい少女だった。
だが、子供の着ているものが少し妙な気がする。
派手なところはない。露出も多いわけではない。
グレーの袖なしのシャツから出る腕に、なんといえばいいのだろうか、黒い、腕抜きというか、ソデだけのパーツをはめている。そのソデは、先の方でラッパのように広がっている。下は黒いスカートと黒いニーソックス。服のところどころにミントグリーンの布が使われているのが印象的だ。

とても既視感があった。

そう、とても……初音ミクである。

そう見える……というか、そうにしか見えない。

最初は、疲れているから脳が錯誤しているのかとも思った。
だけれども、何度見直しても、初音ミクにしか見えない。

いや、まちがいなく初音ミクだ。
細部まで徹底して作りこんでいるわけではなく、おおざっぱな作りで、「だいたい初音ミク」といったところだが、偶然そこらの子供の服装が似るというデザインではない。これは明らかに初音ミクたらんとして、作られた衣装だ。
髪型はもちろん二本にしばっている、いわゆるツインテールである。

だが、なぜ……?
この格好は、親がさせたものだろうか。子供がお願いしたものだろうか。
親の方にはまったくコスプレめいた要素は見られない。オタク感も微塵も感じられない。だが、子供主導で選ばれるキャラクターとも思えない。
仮装の一種として、どこかで見かけたかわいらしい格好を選んだだけなのだろうか。

少なくともわかるのは、この格好をしたい(させたい)と思わせる程度には、初音ミクのビジュアルがスペインにも浸透しているということだけだった。
そしておそらく、この国は、コスプレをすることのハードルが日本よりも低いということも間違いなかった。仮装パーティやハロウィンなどの影響かもしれない。

しかしながら、それらの憶測を確認するために声を掛けるという勇気も気力も語学力もなく、僕はただ首をひねりながら宿へ急いだ――。

気がかりだけが残った。
しかし、なぜ今日か、ということに関しては、心当たりがあった。

ちょうどこの日の数日前から、バルセロナの見本市会場である「フィラバルセロナ」で、国際コミックフェア「SALO INTERNACIONAL DEL COMIC DE BARCELONA」が行われていたのだ。

たまたま行き会ったネット上の情報で、あらかじめそのことを知っていったのだが、それがどの程度の規模で、どんなことをやり、どんな人々が訪れているのかは、検討もついていなかった。

ちょうどいい。この国で、コミックやアニメカルチャーはどのように受け入れられているのか、その実際を見るために、翌日、最終日となるこのイベントに行ってみることにした。まあ、もとから予定に組み込んでいたのだけど。

翌日は、数ある観光地を放置して(ピカソ美術館には行ったけれども)動物園や水族館を巡ったのちに、フィラバルセロナへと向かった。
会場は、バルセロナの中心部の南西部、モンジュイックにある。最寄り駅のエスパーニャ駅はカタルーニャから地下鉄で4駅。20分もかからない。

駅を降りてカタルーニャ国立美術館へ向かう途中にフィラバルセロナはある。

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奥の大きな建物がカタルーニャ美術館。その手前に、夜にはライトアップされ噴水ショーが行われるマジカ噴水が。右手前にあるのがフィラバルセロナで、チケット売り場のテントが確認できる。

イベントのポスター

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ポスターのビジュアルはもう一つあって、入場口のゲートにも描かれている。

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このデザインは、バルセロナの目抜き通りランブラス大通りの海側の端に建てられた、この塔のパロディだ。

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像の人物はコロンブスである。

入場料は当日8ユーロだった。
入場前からコスプレの人をちらほら見かける。コスプレ姿でここまで来ているようだ。
ほとんどは車で来ていると思われるが、ここへ来る途中地下鉄でコスプレ姿を数人見かけた。

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そんなコスプレの子らの間に挟まって入場。
こんなとこに来ておいてなんだが、ほとんどの元ネタがわからない…。

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会場内へはまずエスカレーターで2階へ上がる。混雑時の出入りをスムーズにさせるためだろう。

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2階には入るとすぐ目の前にイベントステージがあった。この時はコスプレ紹介みたいなことが行われていた。
絶好のタイミングでちょうど人が立ち上がって、せっかくの2体のアイアンマンが同時に隠れた……が、気合いのほどはわかる。
でも司会らしき者が一番気合入っている気が……。元ネタわからないけど。

そして2階の大半のスペースを使ってコミックの原画展示が行われていた。
この辺は不案内なのでほとんどの原画の作品がわからないのだが、マイク・ミニョーラだけはさすがにわかった。画像は念のため割愛。

そのエリアの中央には……パンズ・ラビリンス、ヘル・ボーイの撮影アイテムが展示!
デ・ル・ト・ロ!!
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腕&腕。本物?本物なのか!?……あ、ピカチュウパーカーの人が写りこんでいる。

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設定画も!(一応キャラっぽいのは避けておく)

これは期せずしてアガる!

ステージを挟んで原画展示と反対のスペースには、ゲーム関係企業ブース。といっても任天堂とプレステ4の2つしかないけど。

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ゼルダの歴史っぽい展示

モンハンの記念撮影コーナー。

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「G」印は「ULTIMATE」になるのね。

プレステ4は「ゼノバース」メイン。
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悟空&ベジータと写真が撮れるよ!

残りのスペースはコスプレグッズ販売や、特殊メイク体験ブースなど、コスプレ関連のブースが固まっていた。また、業者によるコスプレ本格撮影コーナーとともに、空きスペースを使って、個人もコスプレ撮影をしていた。自分や仲間内での撮影がほとんどで、日本のカメコのような人が囲む、というような状況は見られなかった。


1階へ降りると、2階と同程度のスペースで、小規模コミックショップ、DVD・ゲームショップなどが集まるエリアがまずあり、隣接するこれまた同じくらいのホールで、出版社や関連企業、大手ショップのブースが展開していた。ここが一番賑やかなエリアになっているようで、人の密度も高く、作家のサイン会もところどころで行われていた。片隅には、まだ小規模だが同人誌も売られていた。

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フィギュアやTシャツなども売っている。
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フィギュアはともかくこれらのTシャツはまちがいなくアンオフィシャルであろう……。

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手張りなのか。

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こんなのも…。パーカーのほうが高い。

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サクラクレパス
国内ではコミックやイラストの印象は薄いが。

とあるショップの店員さんの後姿。
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復活のFのスペイン語チラシをTシャツ化……。ちなみに、この時日本で公開が始まって2日後。

このように、どうしても日本の漫画に目が行ってしまうが、実際はコミック全般のイベントなので、大半はアメコミ関連が占めている。BDや地元のコミックも目につく。これはスペインのコミック市場がそうであるということを示しているだろう。見た目の印象では「マンガ」は全体の4~5分の1といったところか。バルセロナでの書店のコミック棚もそのくらいの割合だ。地方へ行くと、マンガの棚の占有率はさらにがくんと下がる。

しかしながら、10月には同じ場所でマンガ中心のイベントが行われる。
SALO DEL MANGA DE BARCELONA

それを考えるとマンガも頑張っているのだな。

具体的なマンガの状況は後に置くとして、スペインのマンガ熱は会場内外のコスプレを見てもわかる。まあ、僕には大半がアメコミ由来だかマンガ由来だか元ネタ自体がわからないのが多いのだけど…。

僕が特に印象深かったのは、コスプレすることのハードルの低さだ。
それは先にも書いたように、ベースとして仮装することの抵抗感の少ないことに関係しているのかもしれない。

だから、作りこんだものよりカジュアルなコスプレが多い。悪くいえば雑だが、とても気軽にコスプレを楽しんでいる気がする。(もちろん細部まで作りこんだコスプレもある)
そのため、高クオリティとネタの2ベクトルしかないように見える日本にくらべ、とても敷居が低く、すそ野が広く見える。

ある女の子は、つば広の透けた黄色い帽子、赤いタンクトップ、青いボトム姿…でルフィとなっていた。一つ一つは色味しか合っていない乖離ぶりなのに、全体の印象として「ああ、ルフィね!」とひと目でわかる姿に目からうろこが落ちた。たぶん日本では、こんな思い切った格好できないだろうなあ。
そのぐらいの雑コスプレが受け入れられるならば、コスプレ行為に対する敷居はぐっと下がるに違いない。

ということはさて置いておいて、僕が会場で一番ぐっときたコスプレがこれ。

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おお花道と流川……背が高いから余計はまってる。若干盗撮くさい感じになったが……まあ実際こっそり撮っているので言い訳のしようもない。
スタイルいい子がコスプレすると決まるね……あ、いや、着る方はそんなこと気にしないで楽しめばいいんだよ!

そういえば、わりとスカート姿のコスプレ(元ネタ不明)をする男子も見かけたな。なぜかみんな小太りだった……いや、いいんだよそれで!うん!楽しんでいれば何よりだよ!

ともかく、雑コスプレも雑でないコスプレも各々が好きなスタンスで楽しんでるのは何だかいいなあ…と思う、国際コミックフェア見物であった。


……続いて漫画のことも書くつもりだったけれど、なんだか長くなったし、力つきたので、いったんここで区切ろうかと思う。

もしやる気が残っていたら後編へ続きます。